月刊シリエズ9月号:特集「事例研究/税務調査の傾向と対策 税務調査から何かを学び活用することはできるのか?」 [月刊シリエズ]
月刊シリエズ9月号の特集は「事例研究/税務調査の傾向と対策 税務調査から何かを学び活用することはできるのか?」。事例を通して、税務調査への取り組み方を検証します。「税務調査の鉄人」佐野智一氏の事例を抜粋して、ご紹介します。
税務調査を積極的に活用することで関与先の信頼を勝ち取れる
税務調査の鉄人・佐野智一税理士は「税務調査は関与先の信頼を勝ち得るチャンス」という。その前提として、最近の税務調査についての傾向をこう分析している。
「最近の税務調査は大きくわけて2つに分類されます。ひとつは、通常の3~5年周期で入る税務調査。そしてもうひとつは、税務署であらかじめ疑問点を調査したうえで入る税務調査。この2つに分類されると思います」
佐野氏によると、最初のケースの場合は、そんなに心配する必要はないという。むしろ、税理士事務所と経営者が資料の提出などを速やかに行なうことで3日だったものが2日に、2日だったものが1日で終了するケースが多くなっているという。「中には2~3時間で終了してしまうものもある」と佐野氏。実際、今回の取材でもそうした短時間で調査が終了するというケースを何回か聞いている。
やっかいなのは、あらかじめ税務署のほうで疑義を持ってくるケースだ。「この場合はオールオアナッシング。是認か100%否認かどちらかです」と佐野氏。こうしたケースでは、調査官はまず有無をいわせず企業のパソコンを押さえる。つまり、契約書等の作成日をチェックするためだ。「だからまず押さえるのが総務のパソコンです。最近ではそういう事例が増えています」。
申告書や契約書をパソコンで作成した場合、何時作成したかが問題になる。3月決算の会社だったら4月1日以降に更新履歴があれば、その時点でアウトになってしまう。
このような場合、逆にきちんとしていれば、確実な証拠になるために、「結局は日頃の処理が問われることになる」。
こうしたことは、税務署の調査に対するレベルアップを意味しているという。「一方ではパソコンの普及による税務署の人手不足も考えられますが、税務署員のコンピュータ等へのレベルが確実に上がっているのは間違いない。そのことに税理士が理解する必要があると思います」。
金融機関も最近では調査の修正履歴を重視
また、税理士として気をつけなければいけないことがあると佐野氏はいう。それは金融機関の対応だ。最近では、金融機関が貸付等の審査基準のなかに、税務調査で修正等をした履歴を重視するようになっていると指摘する。つまり、税務調査に入られ、大幅な修正などがあった場合、資金繰りの相談などにいっても融資してくれなくなることがあるというのだ。
脱税をするような企業は自分(金融機関)たちへ提出する決算書も不正をしていると考えるようになっているというのである。これは脱税に対する一般的な意識の変化もある。以前までは脱税に対する社会全体の罪悪感が必ずしも強かったとはいえない。しかし、近年では「罪」の意識が強くなり、最近では「脱税」は企業の体制や体質を写す鏡のような考え方を金融機関は持っているという。「当たり前といえば、当たり前ですが、これは大きな変化です」と佐野氏。
こうした最近の税務調査に対する前提条件を踏まえたうえで、会計事務所にとって税務調査は関与先の信頼感を得る貴重なチャンスだと佐野氏は強調する。
「私の事務所では、今年すでに20件近くの関与先を獲得しましたが、多くは税務調査に対する対応が原因で税理士を替えた人ばかりです。その事務所は税務調査で信頼を失ったわけですが、逆にいえば税務調査は関与先の信頼を勝ち取るチャンスなのです」
税務調査は税理士にとっての実務試験だと佐野氏は考えている。しかし、その採点を行なうのは、税務調査官(税務署)ではなく、関与先の経営者であると強調する。「ひとつの税務調査によって会社は良くも悪くも税理士・会計事務所を評価します」。
経営者に対して適正なアドバイスはしているか、どちらを向いて対応しているのか。税務調査ではそうした視点で経営者は税理士をみている。だからこそひとつの対応で「ダメにもなり、頼りにされることもある」と佐野氏。
また、佐野氏が税務調査によって経営者と信頼関係を得られるチャンスだというのには、もうひとつの理由がある。それは、通常税務調査は2~3日かけて行なわれる。つまり、日頃疎遠になりがちの税理士と経営者がコミュニケーションを取る大きなチャンスなのだと佐野氏は考えている。
しかも税務調査という真剣勝負の場だからこそ、相手(経営者)が何を考えているのか、あるいは経営者側も税理士が何を考えているのか、改めて理解できることが多いというのである。佐野氏自身、税務調査を立ち会うことで経営者の本音をはじめて知ったことが少なくないという。「だからこそ、信頼を得るチャンスだというのです」と佐野氏。
それは税務署に対しても同様だと佐野氏は考えている。つまり、税務調査とは税理士と経営者と調査官の三者が同じ立場で同じ視線でひとつの申告書に媒介に考える場、それが税務調査だと考えているのだ。








