リスマネが可能にした危機一髪の倒産回避 [関与先を倒産から救え!]
企業にとって最大のリスクとは倒産。リスクマネジメントの観点で決算書を読むからできた倒産回避。保険だけではない、本当のリスクマネジメントがここにあった。
決算書をリスクマネジメントの視点から見てみると
蔵王製作とJ税理士の出会いは、業界団体を通じてだった。J氏が関与し、業界団体の保険のコストダウンを行なったことがきっかけとなり、その団体の理事を務めている伊達社長が「自分の会社の内容も見て欲しい」といって来た事からはじまる。
その頃、伊達社長には悩みがあった。信頼していた副社長に、取引先と半数の社員もろとも引き抜かれ、売上は前年の半分に落ち込んでいたのだ。そこで、ムダなコストを削減するつもりで、J氏に相談をしにきていた。
決算書をみたJ氏の第一印象は「ムダが多い」というものだった。もちろん、前年と比較すれば売上が半減しているのだから、単年度は赤字決算となるのは当然である。しかし、リスクマネジメントの視点からみれば、あまりにもムダの多い決算書に思えた。リスクマネジメントの視点から見る決算書とは、資産の時価評価とキャッシュフローから収支を概算で算定する。それに対して何項目もの角度から、当該企業のリスクに耐えられる限界値を計算するものである。
リスク境界値を超える危険な取引形態を変える
その観点から蔵王製作の決算書を見つめなおして、同社が倒産の危機に直面する「リスク境界値」を算出してみた。リスク境界値とは、その企業の売上・財務状況などで大きく変わり、一般的には数値が低いほど倒産しやすい経営体質といわれている。
J氏が当初算出した蔵王製作のリスク境界値は1億円。その後、再調査した養老保険の見積もりの誤差が3000万円以上あったため、実際には同社の境界値は1億円以上になっていたが、問題はそのリスク境界値を吹っ飛ばす同社の取引形態だった。
「もうひとつ気になる点があったんですよ。それは取引先だったんです」とJ氏は振り返る。蔵王製作は建設業の下請け企業である。当然、大手ゼネコンからの下請け、孫受けの受注が多かった。特にJ氏が気になったのは、当時から経営危機が噂されていた数社との取引が売上の約3割を占めていることだった。
「何で、こんなところばっかりと付き合っているんだろうと思いましたよ」とJ氏は苦笑いする。このままでは、これらの一社でも倒産すれば、あおりをモロに食らうのは目に見えている。最悪の場合、連鎖倒産も十分に考えられた。もちろん伊達社長もそのことは理解してはいるが、取引先を替えるということは新規営業をしなければならない。簡単なことではない。その上、これまで御世話になった大手ゼネコンと手を切ることは経営者として大きな決断が必要である。考え込む伊達社長にJ氏がこう語りかけた。
「社長、建設業界はこれから50%が淘汰されると言われています。つまり生き残ることが出来れば、その後にはビッグビジネスチャンスが訪れます。今、確実に生き残ることが一番肝心なんです」
この言葉に心を決めたのか、伊達社長は翌月から新規の営業を始めていった。もともと同社は、建設業界としては珍しく、現場の従業員全員が積算することができ、業界内では評価の高い仕事を行なっていた。
伊達社長の決断にJ氏も財務面からリスク回避の支援を行なっていく。リスク境界値を上げるために、毎年2,000万円の内部留保を行なうように提案した。そして保険も見直した。その結果、J氏の予測とおり3年後には最も受注額の多かった大手ゼネコンが倒産した際にも、同社はほとんど影響を受けることなく乗り切ることができた。「我々に営業的な支援やアドバイスはできません。しかし決算書からどこに問題があるのか、何を解決すれば良いのかを見つけることは出来ます」
経営者を本気にさせるそのアドバイスが必要
J氏はこれまでにも同様の事例に何件か関与している。その経験から企業が立ち直ることが出来るかどうかは、社長の決断一つだと考えている。そして、それは、ほとんど数回会うだけで立ち直る企業かどうかは判断がつくようになったという。
J氏によれば、単年度の赤字は全く問題ない。しかし、数年赤字が続く企業になると、負け癖のようなものが経営者についてしまうという。それが、企業再生への最大の障害になるとJ氏は見ている。
「負け癖がついてしまうと経営者が依存体質になってしまう。それはコンサルタントに対しても依存してしまうことになる。私たちができる財務、特にコストダウンは限界がある。やはり売上を上げる努力は経営者自身が行なうもの。私たちはその方向性を示すことしかできません」。そういう考えから、J氏は最初の段階から甘い言葉は決して言わないという。企業を立て直すことが出来るのは、経営者だけ。そのためには、経営者を本気にさせることと、ある程度危機をあおることも必要なのかもしれない。そして、あらゆる視点からリスクを捉え、対策を立てることで経営者の本能を呼び起こすことを可能にする。
(※登場する人物名・企業名はすべて仮名です)








