「下請けは泣かさない」社長の信念に税理士が本気になった [関与先を倒産から救え!]
人間は感情を持った動物。税理士を動かすのも何よりも関与先の社長の情熱。「人には迷惑をかけない」そんな社長の心意気があるからこそ、税理士も本気で危機を救う気持ちになれる。
安定企業のはずが一気に落ち込む経営状況
これは、G税理士が独立前、勤務税理士だった時代の話である。当時勤務していた税理士事務所で先輩職員からこの案件を引き継いだ。
「お前、運がいいぞ。ここの企業は、業績も安定しているし、何より社長の人柄が最高だからな」
先輩からそういわれてG氏が里山工業を訪れたのは今から4年前。バブル崩壊後、建設業界全体は低迷が始まっていたものの、里山工業は比較的安定した経営を続けていた。
しかし、G氏が担当してから3ヵ月ほどが経過し、言われていたほど売上がよくない事に気づいた。最初の月は、比較的売上に波のある業界だけに「こんなものかな」と思っていたが、3ヵ月連続で前年度の売上をかなり下回ったことで、「このままじゃ売上が半減してしまう」とG氏は感じていた。そんなある日、里山社長から電話が入った。
「社長、どうしました」
「いや、売上が伸びないから、気になってね」
「実は、私も社長にその事を話そうと思っていたんです」
まさに、以心伝心。G氏は里山社長が敏感に経営に危機感を抱いていたことが嬉しかった。
里山社長は以前より無借金経営を考えていた。しかし、無借金どころか、経営危機になってしまったのである。そこで、G氏はキャッシュフローを中心に現実とのギャップを中心に里山社長に報告した。
1.経費削減を行い、粗利益率をアップによる収益性の確保
2.キャッシュアウトを抑制する
3.必要売上(損益分岐点)の見直し
そしてG氏は里山工業の損益分岐点を見直してみた。必要最低限の売上はどのくらいか? 建設業界ではよくありうる売上が乱高下した場合のパターンを含めて3~4種類のシミュレーションを行なった。その結果、一つの結論がでた。それは、受注する1案件ごとの粗利を向上することが必要だった。
これらを実行しないと里山社長が目指す無借金経営は不可能であり、むしろ借金が膨らむ危険性があることを説明した。
この頃、里山工業がある市内では、トラックが消えたといわれるくらい、建設現場がなくなっていた。里山工業は公共工事に頼らない、民間工事受注がほぼ100%に近い建設業者だったが、バブル崩壊の波が一気にきてしまった。そこへ、取引先だった企業数件がバブル崩壊のあおりを受け、あっさり倒産。貸し倒れが合計2,000万円にもなった。
2度の役員報酬カットで社長の給与は半額以下に
そんなある日、里山工業のもとを訪れたG氏に、里山社長がこう切り出した。
「Gさん、このままじゃ周りに迷惑がかかるようになるから、私の役員報酬をカットしたほうがよいと思うんだけど」。この頃、里山社長の給与は100万円。それを4割カットすることにした。この提案を受けて、G氏も腹を決めた。顧問料の4割削減である。当時、G氏は会計事務所の一職員。そんなことを決定できる権限はなかったが、何とか上司を説得して、顧問料を引き下げた。
以前から里山氏が口癖のように言っていたのが、「周りに迷惑をかけたくない」だった。里山氏は人情味があつく、周囲の信頼感は高かった。G氏も担当替えになった最初の対面時からその人柄にほれ込んでいた。その里山社長が本気になって経営の見直しを考えているからこそ、顧問料4割の削減を逆提案できたのだ。
そして、交際費の削減。建設業ということもあり、この頃まで受注先との付き合いなど、かなり派手に行なっていた。
役員報酬については、3ヵ月後に中間報告をG氏が行ったが、思ったほどの効果が生まれなかったことから、さらに2割の削減を実施した。その結果里山社長の給与は全盛期の半分以下。また他の役員も「ガマンしてくれ」と頭をさげて役員報酬のカットに踏み切った。
また、売上が好調だった前期まで節税対策として入っていた保険をリスクマネジメントを計算した上で、2~3本を除いて不必要なものは解約した。
「キャッシュフローという意味ではこれが一番効果が大きかったかも知れない」とG氏。人との付き合いを大事にする里山社長は、このころ10本近く保険に入っていた。それを2~3本に減らすことで、キャッシュフロー的には非常に大きな効果が生まれた。そのほかにも、社長個人として会社から得ていた地代を引き下げたり、定期積み立てを解約するなど支出の圧縮につながることはすべて行なった。
下請けへの支払いは銀行から融資を受けても払う
しかし、里山社長が唯一手をつけなかったものもある。それは外注(下請け)への支払いだった。
「周囲に迷惑をかけたくない」という里山社長の強い意志で、例えその月に入金が少なくても、外注先への支払いだけは銀行から短期で借り入れを行なってでも払い続けた。
この頃、里山工業の大きな柱となっていた事業は、安定した収入にはなっても利益率は決して高くなかった。そこで里山工業の高い技術力をフルに発揮できるもっと利益率の高い業務への拡大を提案した。里山工業は、従来から作業の丁寧さと技術力はその業界では、高い評価を得ていた。業界淘汰の波の中、それまでよりスリムな経営を目指す必要があった。だから金額が大きくても、利益率の低い仕事は一切断わるようにした。
高利益業務へのビジネスモデルの変換をはかる
また、これまで外注に出していた工事を新規物件に関しては、できるだけ自社施工で引き受けるようにした。もちろん、従来からの仕事はこれまで通り、下請けに回し、下請けが困るようなことはしなかった。これにより30%程度だった受注あたりの粗利を40%くらいまでにすることが可能になった。
こうした結果、売上自体は前期の約6割程度の3億円にとどまったが、G氏が当初予測していた3,000万円程度の赤字を出すことなく、200万円強の当期損失に抑えることができた。また、現在は同額程度の利益計上ができるようになったようである。しかし、それでも里山社長らの役員報酬はまだカットしたままだ。無借金経営という目標を達成するまでは、利益はまず借入れに対する返済にあてることにしているからだ。
長引く不況で以前のような業績をあげるのは難しい時代になっている。しかし、里山社長は逆に地に足の着いた経営を実行することで、経営の危機を脱出することが可能となった。目標としていた無借金経営もこの一両年で可能になるところまできているという。
G氏は、昨年独立開業したため、現在は里山工業の顧問ではなくなったが、里山社長とは個人的に付き合いを続けている。「里山社長とお付合いをして、人との付き合い方の重要性を改めて感じた」と話す。また、今回の案件に携わったことで、税理士の可能性と限界を知ることができたという。
可能性とは、関与先と深く関わることにより、関与先の経営を安定させることが可能になること。
しかし、財務的には関わることができても、本当の意味での経営を支援することの難しさである。売上を伸ばす経営支援をするならその業種の実情、マーケティング等々かなり深い知識が必要になる。業種特化していない税理士は、あらゆる業種の関与先を持つことになる。そのすべての業種のマーケット事情を熟知するのは不可能に近い。
そう考えたG氏は、独立後飲食店に業種を絞り経営支援を充実させようとしている。「本当の経営支援がしたい。その意味を含めて、今回の案件に関われたのは、今後の税理士生活にとっても大きなプラスになると考えています」
(※登場する人物名・企業名はすべて仮名です)








