経営者に経営危機を実感させた税理士の一言 [関与先を倒産から救え!]
経営者は債務超過の現状を把握していなかった。新規に関与を始めた税理士は愕然とした。「何とかしなければいけない…」しかし、経営者はこの危機的状況をそうとは思っていなかった。このときから税理士と経営者の“戦い”が始まった。
7億円の累積赤字
I会計事務所の所長F氏が金融機関からの要請で、“三島外食サービス”社の関与を始めたのは、昨年の夏だった。同社は数店のレストランを経営するサービス業。F氏が見せてもらった数字は惨憺たるものであった。平成4年ごろまでは年間の売上げが3億2千万円平均であったが、平成7年から急落。今期は売上げ見込み1億8千万円、景気がよかったころに比べて4割強の売上げ減。そして最大の問題は債務超過だった。およそ7億円に及ぶ累積債務を抱えながらの経営だった。ところがF氏が初めて会った竹田社長はそれほどには危機感を持っていないように見えた。“いくら厳しくなったとはいっても金融機関は運転資金を融資してくれるものだ”と考えているようだった。F氏は竹田社長との面談の終わり頃、思い切って話した。
「死ねば何とかなると勘違いしていませんか。死んでも借金はなくなりませんよ」
この言葉に竹田社長は驚きの表情でF氏の顔を見ているだけだった。
業績管理から手をつけることに
竹田社長に尋ねたところ、これまで税理士には決算だけをお願いしていたという。F氏はリストラも含め再建のためのさまざまな方法論を竹田社長と話した。すると、竹田社長の考えが次第に明確になってくるのを感じた。“20人いる従業員の首切りはしない”“その代わり経費削減のためにはなんでもする”、この二つである。F氏は、「私は何一つ決定していない。すべて経営者自身が言い出したこと」というが、事務所としての対応をみるとその力の入れ方が分かる。
新たに実施し始めたことは、
1.試算表を経営者に見せる
2.1年間の計画を立てる(売上目標・来客数目標など)
3.売上げ目標の設定
4.これらの数字を基に月1回、半日かけて業績管理の幹部会を開くこと
などだが、F氏は「従業員にも分かりやすい数字を並べるように心がけた」という。
経費削減については考えられるすべてのことを実施した。まず、人件費の一律15%カット。これは竹田社長の方から提案があった。「従業員の解雇はしない。その代わり給料を15%削減する」当然、F氏が人件費削減か人員整理の二者択一しか方法がないとを竹田社長に説明した結果だ。
竹田社長の決断は従業員に受け入れられた。三島外食サービスを続けるための苦渋の選択であったことを従業員が理解したからに他ならない。経費削減はまだまだ続いた。新聞・雑誌の購読中止、幹線道路に出していた看板広告の廃止、調理場責任者を説得して仕入れ先も替えた。
もちろん、F氏も動いた。東奔西走の日々が続いた。金融機関との交渉を繰り返した。その結果、月々の250万円に上る支払いを45万円まで減額できたが、ここまでだった。
来客数が増えた。そして従業員が変わり始めた!
1月から始めた再建計画の結果が出るのはまだ先、とF氏は締めた手綱を緩めることはしない。しかし、確実に結果が出始めている。まず、来客数が増えた。給料カットで危機感を持った営業社員が、これまでしなかった旅行代理店に向けての営業を始めた。F氏は竹田社長と話していて「従業員の意識が変わってきた」のを感じるという。
従業員の意識が変わってきたのはもちろん、最も変わったのは、竹田社長自身だった。初めての面談の際、F所長に「死んでも借金はなくなりませんよ」といわれたことがショックだったのだろうか。7億に及ぶ累積の負債に対して竹田社長は心のどこかで「生命保険がある……」と考えてはいなかっただろうか。人の心の中までは推し量ることはできないが、F氏は“それでも相殺できないほど借金があるのだ。そんな馬鹿なことを考えないで、再建の道をしっかり歩んでいこう”と竹田社長に伝えたかったのだ。
築き上げてきた信頼こそが税理士の誇り
結果的に、竹田社長は従業員の先頭に立って再建に立ち向かっている。今後の推移については、決して楽観視はできない。しかし、変わった竹田社長とそれに応えようとする従業員との共同作業を見てきたF氏は「何とかなるかもしれない」と考えている。
F氏は言う。「うちの事務所のことで言えば、採算はとれていない。月4万7千円、幹部会への参加は、時間9千円の報酬をいただいているが、幹部会に参加するのは私を含めて事務所から3人。また月に3回以上、足を運んでいる。なぜここまでやるのかと自分でも考えてしまうことがあるが、竹田社長のような悩みを抱えている経営者は多いと思う。そんな人たちを見て、放っておくわけにはいかない。もっとも竹田社長はそんなに悩みを抱えていなかったのだけどね」
笑いながら語るF氏は「会計事務所は経営者が経営に対する考えを改める触媒になれればいいと思っている。実際に厳しい決断を下すのは経営者で、われわれは何のリスクも負っていないのだから」と語る。
F氏は、明日も竹田社長に会いに行く。こうした毎日の積み重ねが経営者との信頼関係を築き上げるための唯一無二の方法であることを知っているから……。
(※登場する人物名・企業名はすべて仮名です)








