私募債の発行で増資を可能に! 休眠状態からでも公開を目指す!! [関与先を倒産から救え!]
企業にとって必要なものは、商品と資本。アイデア勝負のベンチャー企業にとって特に問題は資本の調達。銀行からの融資が期待できなくても私募債を発行することによって、資金を調達することはできる。
前年度申告ゼロ銀行融資はできない
E税理士がノーリーズンサービスの顧問税理士となったのは1年前。関与先からの紹介だった。ノーリーズンサービスは山田社長が脱サラをして始めたベンチャー企業で、現在は株式の公開を目指している。
同社はその数年前から山田社長が「将来の独立を考えて」興した有限会社であり、E氏が関与を始めた際は、税務申告はおろか、売上もほとんどなく、事実上のペーパーカンパニー状態だった。山田社長が前職時代からの取引先や仲間と意見交換をしているうちに、特許もののアイデアが浮かび、事業化を目指して独立した。しかし、アイデアの内容からして、最初から株式公開を前提に事業化したことから、どうしても有限会社から株式会社にしなければならなかった。つまり資本金を300万円から1000万円にしなければならず、最低700万円増資する必要が生じていたのだ。(当時)
幸い資本金は山田社長が何とかかき集めることができたものの、今度は運転資金がなくなってしまった。同社の状態から信用保証協会などを通した融資など最初からできないと考えていた。山田社長から資金調達の相談を受けたE氏は「借入れ」や「私募債」を提案していた。
もちろん、ベンチャー企業といえば、現在ではエンジェル制度やベンチャーキャピタルなども多数あるが、「顔」の見えないエンジェルはE氏からすれば薦めることはできなかったという。また助成金をも考えてみたが、基準をクリアし、申請するには時間がかかり過ぎる。同社にはそんな時間の余裕はなかった。
そして、私募債を提案しようとした理由はもう1点あった。それは、同社が最初から株式公開を考えていることから、借入れなどが多いよりも私募債とはいえ社債を発行した経験があるほうが、同社の将来にとって信頼度などではメリットが大きいと考えたからだ。
「私募債はどうでしょうか?」そういうE氏に山田社長の判断は早かった。というよりも、金融機関からの融資は期待できない以上、山田社長にとって、知人から借入するかどちらかしかなかったのだ。
しかし、私募債を提案してみたものの、E氏にまったく不安がなかったわけではない。というのも、E氏の事務所でも私募債の発行自体はそんなにあるわけでもなく、年間1件あるかないかだという。そしてE氏を悩ませた理由はもうひとつあった。それは私募債に関する資料の少なさだ。
地元の書店はおろか、都心部まで本を探しに足を運んだことも何度もあった。結果的には2年ほど前に購入していたA税理士著の書籍を参考にして今回の事案にも臨んだという。「知り合いの税理士から私募債ならA先生だよ」と言われていたことあって、実務的にはほとんどの場面で参考にしたという。
それでも公正取引法や商法など最新の改正に注意しなければならないので、以前から提携している弁護士や公認会計士などに相談を重ね、私募債の発行にあたった。
ペイオフ解禁が追い風?目標額をすぐにクリア
私募債にしたのは結果的には大成功だった。ほどなく取引先企業を含む5人(法人含む)から総額で1000万円を調達することができた。
「今、考えるとペイオフの影響もあったかも知れませんね」とE氏。今回の私募債の購入者には個人もいるが、ペイオフの関係から社債とはいえ、株式などの投資物件に少なからず感心が高まっていたことは事実であろう。年率5%ということもあるし、何より公開予定であるならば、大きな先行投資にもなるからだ。
私募債の発行に際して同社の事業計画ももう一度確認した。「私募債とはいえ社債です。数字的にいい加減なものをプレゼンテーションするわけにはいかないでしょう」とE氏。もっとも、その時点では、まだ実績的には乏しいため、事業計画は夢の数字に近かった。「あの通り行ってくれれば本当に嬉しいのですが」とE氏も苦笑いする。それでも自ら目を通すことで少しでも投資家に安心してもらいたかった。
実際には、私募債の購入者の人選もプレゼンテーションも山田社長が一人で行なった。「どんな事業計画があろうと、どんな素晴らしいアイデアでも人の心を動かすのは経営者の熱意ではないでしょうか。私もそうですが、山田社長の今回の事業化に対する夢、理想、ロマン、そして何より熱意に心を動かされたということだと思います」とE氏。
難しい事案を経験することで事務所のレベルアップに
E氏は開業して10年目。これまでに関与先で株式公開した関与先はない。そのため、今回の顧問を引き受け株式公開の話がでたときも、「不安がなかったといえば嘘になる」とE氏。しかし、以前、扱った農地の相続対策の際も、初めてのときは「難しい」と感じながらも、勉強することで自事務所のレベルアップにつながったことを思い出し、今回も「勉強させていただいている」と謙虚に語る。
現在の悩みは同社の株式公開をどのタイミングで行い、そしてどこに上場するかということ。「これは、本当に未定です。競合相手などの関係もあるし、市場の選択もあるし…」。
すでに同社で開発した商品は販売可能な状態になっている。これからはどういう戦略でどう販売していくか。それによって事業計画を再構築しなければいけない可能性もある。
もうひとつは、仮に順調に利益が計上されて、上場可能になったとしても、その時点で株式公開したほうがいいのか、それとも企業ブランドを確立させてから公開したほうがいいのか思案中だという。また現在同社が取引先にしている企業もベンチャー企業があるため、その点は専門の弁護士に依頼して取引基本契約をしっかり結び、同社が不利益にならないように注意している。
E氏は今回の事案について、私募債を発行し、関与先のニーズを満たしたことには満足している。しかし、私募債の発行は負債扱いになるため税制のメリットなどはあるものの、会社として全面的によかったのかという点について自ら問いただしているという。
銀行、特に大手銀行との取引が少ない中小企業にとって資金調達は至難の業。今回の事案は資本金調達という特殊な例ではあるが、運転資金や設備投資においても同じである。社債の発行とはいえ、比較的面倒な手続きも少ない少人数私募債の発行は中小企業救済の一助となるかもしれない。
(※登場する人物名・企業名はすべて仮名です)








