社長とひざを突き合わせて1泊2日、徹底した話し合いが問題を解決させた [関与先を倒産から救え!]
悩みを解決するのは話し合いから。H氏はそう信じている。関与先の社長とひざを突き合わせて、毎月2日間の研修所での話し合い。相手が納得するまで話し合うからできる経営危機脱出法だってある。
監査担当者の気づきが危機を未然に防いだ
最初のきっかけは、阪神印刷を担当している監査担当職員から一言だった。
「所長、阪神印刷さんの様子が何かおかしいんですが…。岡田社長も元気がないし」
岡田社長とH氏は同い年。創業もほぼ同時期である。
「6畳一間で始めた頃からの付き合い」とH氏。仕事を抜きにしてもある意味のライバルであり、同期の桜でもある。その岡田社長の元気がないと聞いては、H氏も黙ってはいられない。表敬訪問と称して早速阪神印刷へ向かった。
「岡田社長、どうしました。担当者から社長が元気ないって聞いたけど…」
「また社員が辞めるっていっているんだ」
「そうですか、担当者も社員に覇気が感じられないとは言っていましたが…」
「どうすればいいのかな? 経営をもっと真剣に考えなければいけないのかな?」
社員のやる気は営業に結びつく。設備費がかかり、利益率はあまり高くない業界だけに売上の減少は経営に直結する。阪神印刷は経営的にも厳しい状況に追い込まれつつあった。
ここから、H事務所と阪神印刷の二人三脚の経営再建計画がスタートした。
経営再建といえば、一般的にはキャッシュフローをよくしたり、経費を削減したり、テクニカル的な内容が多い。もちろん、H事務所も経費削減などは提案しているが、コミュニケーションが全てを解決すると考えるH氏が提案する経営コンサルは一味違う。兵庫・三田にある保養施設を利用して、毎月1泊2日の話し合いを提案したのだ。
他者との接触を分断して1泊2日のやまごもり
H事務所では、以前から経営建て直しのセミナーを東京まで研修しにいっている。そこで学んだ内容をもとに阪神印刷との案件に臨んだのだ。
最初の数ヶ月は監査担当者2名と岡田社長で、例えば経営計画だったり、資金繰りだったり、あるいは会社経営への理念とか、思想といったものまでテーマに取り上げられた。こうして少しずつ岡田社長を含めた経営陣に指導をすることで、まとめられた経営計画書。そして、岡田社長が社内で経営計画を発表する直前の話し合いは、H氏と岡田社長の1対1での話し合いがもたれた。そこで、経営計画書の最終的な見直しがされた。
「私のすることは、経営計画に魂を入れること。そのために、相手に全て気づかせるように問い正すこと」とH氏。
経営計画などを見て、足りないことを指摘して挿入するのは簡単だ。経営計画などは、他からの寄せ集めで作成されることも多い。しかし、それでは折角作成してもただ単なる紙切れで終わる可能性が高い。社長自身、理解しないで作成している文言があるからである。H氏が言う「魂を入れる」とは、寄せ集めの文言でも、問い詰め、自答させることで、その言葉に魂が入り、経営計画が社長自身の頭に入るという意味があるという。
魂のこもった経営計画ができてから、阪神印刷は従業員も徐々に定着し、インターネット関連の事業も順調に行なわれている関係で経営は持ち直した。
「この案件は本当にうまくいった」とH氏。
3方向のコミュニケーションが成功をもたらす
この案件でもキーワードとなるのが、コミュニケーションである。H氏の信条は、悩みは相談することで解決するというものだ。事務所内でもコミュニケーションの重要性をといている。特に、監査担当者には、関与先で何も話さないで帰ってくることは許さない。逆にコミュニケーションが取れているなら、1件に何時間かけても構わない。そんなことから、中には1日に1件しか関与先を周れない監査担当者もいるという。
しかし、今回の案件でも、監査担当者からの報告が危機を未然に防いだ最大の要因だ。そして、常日頃から関与先とコミュニケーションを通じて、注意深く観察しているからこそ、関与先の微妙な空気を感じ取り、H氏に報告することができたのだ。H氏も「長年の友人である岡田社長を救えたこともそうだが、そうした監査担当者の関与先への気配りができていることが何より嬉しい」と話す。
関与先→監査担当者→所長→関与先の社長。この3箇所のどこかのコミュニケーションが悪くても、今回のような成功にはつながらなかったかもしれない。
会計事務所はサービス業であると言われて久しい。そしてサービス業の基本はコミュニケーションであるといわれる。そのことをこの事例は実証したともいえる。
(※登場する人物名・企業名はすべて仮名です)








